音楽史と音楽論 (放送大学教材)

従来の音楽史は西洋の音楽を中心にした記述を行ってきた。それに対し本書では、日本の音楽の発展を古代から現代まで中心に追い、西欧の音楽はそれを補う形で紹介するという、独特のタイプの音楽史を展開している。このように視点は非常に面白いのだが、一方、もともとこれは放送大学のテキストで講義を元にしているということもあり、やはり教科書的に事項が詰め込まれている、という印象は拭えない。例えば平安時代のところでは、雅楽の話、左方と右方、催馬楽、朗詠、神楽、声明、今様、田楽、猿楽と詰めまくって、これらがわずか11ページに押し込まれている。当然、個々の説明は、この時期にどのような人がこの音楽をどのように行ったか、という教科書的説明に毛が生えた程度しか行えていない。各音楽の音楽史全体の流れにおける位置づけとか特徴とか言った俯瞰的な視点はあまり議論されておらず残念である。また、ここの楽器についても、ある程度知っていることを前提としている感じの説明が多い。例えば琴と筝の話で「今日の十三弦の楽器のように柱を立てる形態のものは筝と呼び、無柱のものを琴とするのがほんとうは正しい」（p55）とあるが、ここで琴の「柱（じ）」が何を指しているかは前提となっている。このくらいは知っている人を対象にした本ということであろう。視点は非常に面白いのだが、やはりもともと講義テキストだったためか、やや羅列色が強く、説明も詰めまくって分かりにくいところが多い。もう少し読みやすいと非常に良い本になっただろうにと思う。やや残念である。