世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方

物事の本質を追究しよう，現実に起こっている問題や事象は氷山の一角だから，その背景をしっかりと調べて全体像を見渡して…自分の中では，これまでもそう考えて仕事をしているつもりでした。しかし，本書を読んで，まだまだ自分の考え方が浅はかで，視野も狭く分析力が不十分なことを痛感させられました。特に，「非線形の世界」という考察。これまで自分の中では，対処療法にならないように問題の背景を探って判断しているつもりでしたが，往々にして問題点と原因を直接結んで，その流れの中で解決しようとしていたことに気づかされました。あるいは，発展途上国に対する技術援助により，一時は劇的な効果が見られるのに，10年経ったら，援助した機械設備が全く使われておらず，また昔の状態に逆戻りしていた･･･というようなニュースを耳にすることがあると，これまで個人的には「それは支援の方法が中途半端だからそうなってしまうんだ」と勝手に決めつけていたんですが，本書を読むと，問題の本質が別のところにあることが見えてきました（＝介入者への責任転嫁）。そのほか，限定合理性，部分最適化，共有地の悲劇，低パフォーマンスへの漂流･･･どれも，思い当たる節があり，自分としては「努力と試行錯誤の末の結論なのに，どうしてこうなるのか？」という苦い経験も，実はこういうことだったのか…と思い知らされました。筆者は『世界がもし100人の村だったら』でも有名な方ですが，その精緻な分析力にはただただ驚かされるばかりです。しかも，誰もが思い浮かべる定量的指標で物事の良し悪しを判断せずに，定性的な特徴をいかに数値化して本質の追究につなげるか，そのことの重要性についても言及しているなど，本当に奥が深いです。それにこれだけ客観的合理性を追究しながらも，慈しみの心と，つながりを大切にして，地球規模のシステムの課題を解決しようと考えていた姿勢に深く感銘を受けました。60歳で急死してしまったのが惜しまれます。唯一の難点は，前半はわかりやすくて読みやすいのですが，後半の一部に，日本語としてこなれていないというか，わかりづらい言い回しが散見されることです。恐らく日本語に翻訳しづらい記述なのだと思うのですが，一読しただけではポイントがストンと落ちないところもあって，ちょっと残念でした。原文が読めればきっとよくまとまっているんでしょうね。多様化・複雑化が進む世の中のダイナミックな動向を理解する面でも，あるいは日々の生活で直面する課題への対応においても，参考になることばかりで，大きな気づきが得られた1冊です。